山口大毅「都心部における地域共存型清掃工場の提案 -北清掃工場をケーススタディとして-」
https://gyazo.com/c4fb5aed284e60e165b950071f47c8ca
0.はじめに
高度成長期以降、大量生産、大量消費、大量廃棄していく都市において、ごみの処理を一手に担う清掃工場は欠かす事の出来ない建築である。清掃工場を NIMBY (Not In My Back Yard)という認識を変え、その潜在力に着目し、環境調和を目指す未来の社会に向け、より人々の生活に寄り添う様な清掃工場を提案する。https://gyazo.com/ce955d7bdff44c352ab50ac1e72bf5b8
1.研究背景
1-1. 清掃工場の順次建て替え計画
23区内は建替中の工場を含め、21工場を所管している。東京二十三区清掃一部事務組合(以後、清掃一組) では工場の計画耐用年数を25~ 30年程度としている為、これらの工場は平成30年代に入ると順次建替時期を迎える。今後、稼働中の工場では、12 工場が 25 年を迎えるため、焼却能力を確保しながら、計画的な施設整備を行っていくことが急務である。
https://gyazo.com/c8835ce89c1ee281f4340d86a8a99497
1-2.清掃工場に求められる意匠性の変化
清掃工場は従来、迷惑施設として見られていたが、近年では市民に開かれた施設へと役割が転換してきている。清掃工場に期待される役割の転換に伴い、施設の建築意匠についても、施設の役割を象徴するようなデザイン、あるいは、環境啓発を発信するデザインが求められるようになってきている。https://gyazo.com/cb0ed1c13f1657f9d86947d975d7bb49
1-3.人口減少・少子高齢化の進行
日本の総人口は2010年の1億 2,806 万人をピークを迎え、減少し2060年には 9,284万人になることが予想されている。ごみ総排出量も減少していくことが予測できる。持続可能な適正処理の確保をしながら、将来の清掃工場の立ち位置、能力を考える必要がある。https://gyazo.com/e1a4255dc6ec96bb9af172f084a71d69
1-4.清掃工場の建て替え計画の現状
清掃工場の整備において、「保存・修復・再生」は行われず、取り壊され「新築」が行われる。既存工場から建替後の計画では存続・継承は考慮されていない。 現在の建替行為は、以前存在した建物の歴史・系譜を断ち切っていると言える。https://gyazo.com/6d0ae7ac73b5ff34e5b20f9485924b56
2.計画の目的
2-1.地域共存型清掃工場の構想
本提案は公共施設へと役割が転換されつつある背景を抱え、建築自体のデザインの変化が求められる清掃工場に対し地域共存型清掃工場を構想することを目的とする。 環境啓発施設として環境問題を考える契機を創出しながら環境問題と共生していく公共施設で提案する。https://gyazo.com/3d0db34d11848ffcfaf421050bc9666c
3.調査・分析
3-1.都心部における清掃工場の外観意匠の分析
都心部における清掃工場の外観意匠の傾向を把握する。 既往研究を援用し、外観意匠を「表層操作」、「形態操作」に大別し、 下記 10 項目でデータシートを作成する。https://gyazo.com/e6eb2d559a0f28d16e215360e15f37b1
1978年〜2021年に稼働開始している都心部における清掃工場の計50工場を分析対象とする。https://gyazo.com/3ce927187c9766ba1cbe07af85f4b2f8
その結果、表層操作は外壁上にラインに施す操作を取り入れた工場が多く、 形態操作ではセットバックし圧迫感の軽減を行う事例が多くあった。 時代が下がるにつれ、さまざまな「工場らしくない」建築的特徴が採られている。 迷惑施設と称される清掃工場の悪いイメージを外壁の意匠計画によって解決していこうとする意図がみられた。https://gyazo.com/3eed58cc842a3f7c60838f5326fa4c37
中でも研究対象である北清掃工場は建築的特徴の中で、表層操作を一切用いていないこと が分かった。 打ちっぱなしのコンクリートで全体を構成し、むしろ「工場らしい」機械主義の美学というテーマを意匠的に体現することで、従来の工場でもなく、表層を装飾した他の多くの 事例とも違う清掃工場のイメージを示していると考える。https://gyazo.com/ec4fc5e0fdf142cc6b255aa9c02cabe9
3-2.北清掃工場の外観意匠の分析
敷地調査を踏まえ、北清掃工場では表層操作に寄らない形態操作のみによる外観意匠の特徴があり、外壁部分を保存すべき価値があると評価する。https://gyazo.com/a568de511340abe5563db0a000a62468
設計者である石山修武が述べる「風景のデザイン」・「箱形からの脱却」・「打ちっぱなしのコンクリート」、これらの建築的特徴を踏襲し、存続・継承といった要素とする。
https://gyazo.com/4c90026c33e880d32be3035886d66de5
3-3.既存清掃工場の内部空間分析
工場空間部分では耐震基準や排熱、機器メンテナンスなどにより、大空間、機械設備が覆う空間となっており、いわゆる一般的な空間にない特徴を持っている。https://gyazo.com/247439b3939e9a21e4abd0ff20de5a02
ここで清掃工場の特徴を整理する。プラットフォームやゴミピットや焼却炉を主設備、排ガス・電気・熱設備については副設備とここでは定義する。ゾーニングは主設備の両側、下部に副設備が付随する構成が一般的で、副設備の配置変更は計画上の操作が可能である。https://gyazo.com/fe1b8fc820629d9671a682a84af3275d
これらを踏まえ、既存の北清掃工場の平面プランをみる。1階平面図を例に取ると、北側に主設備、南側に副設備が集約されていることがわかる。空間の設計可能性として、この自由な計画ができる副設備部分こそが清掃工場の保存改修を行う上で、有効であると考える。https://gyazo.com/b3b00a0964ac4956de25447b9317198a
4.計画の概要
4-1.計画敷地概要
北清掃工場は住宅街の真ん中に位置し住宅街と工業系・商業が混ざり合う結節点に位置している。https://gyazo.com/16d95d1f9f7e4ca409ddb540b0701e92https://gyazo.com/af8de81dc38d29f0b4660d0c657a74d6
周囲の様子https://gyazo.com/007c33d4318ae40aae81c6c6fde5ff91
4-2.地域共存拠点によるプログラム検討
地域施設の一体的計画のプログラム検討を行う。役割や機能に関連する公共施設、及び、北区内の老朽化が進む公共施設を対象に改修や再配置について検討する。本計画では熱エネルギー還元を活かし温浴スポーツ施設、生ゴミ堆肥を用いた菜園施設、地域の憩いの場としての区民センターを複合する。https://gyazo.com/23e4a0c2209f87883974fd1e6bc627d3
5.設計の概要
5-1.全体計画
本計画では主設備部分についてプラント設備の更新・そして増改築を行い既存躯体を利用し、https://gyazo.com/82c29ff4a4eab37786a9cfed0765412e
副設備部分があった場所は地域機能施設の複合、工場空間の転用、
https://gyazo.com/1108adecef59d4d58589f60e49955948
副設備部分は移動・増築をおこない、https://gyazo.com/4fc27c02cae53cf71fc601121cf8df71
下記のように計画する。https://gyazo.com/e770d74b595337da9fd0aa1096de52eb
既存工場は南北軸に清掃工場・地域拠点機能が分断されており、大通り側は清掃工場機能が優先されている配置計画である。パッカー車動線の整備とメンテナンス動線を考慮することで、軸を東西軸へと変更し、地域拠点としての立ち方と清掃工場側スにストレスがかからないことを担保し計画する。https://gyazo.com/10c1ca39b676df195c1a1374800706c9
外壁保存について、地震などの外力による変形に対し、上記のように弾性すべり支承を設けて対応する。https://gyazo.com/0009c94739aadbd152c416b86fdea43f
地域共存型清掃工場の位置付けとして、以下5つのフェーズを踏み、全体計画とする。https://gyazo.com/ea7735aa35cb6d04b38b4091c2c03859
5-2.設計手法への展開
巨大設備機器が入っていた大空間をヒューマンスケールに落とし込む為に、多様な BOX を挿入し地域施設としてのさまざま空間を形成する。各BOXは既存工場の柱スパンからのスケールを決定する。例えば、S-BOX では通り芯番号 X17-18 通り、Y4-5 通りからスケールを決定し、ヒューマンスケールの空間を設ける。https://gyazo.com/0ca569dfb6fcc35a109f61b4ef55de2f
これらが混ざり合うことで、地域施設へと適応する空間として、機能的性質に応じた新たな付加価値を与えていく。混ざり合い、できた付加価値の空間部分を示す。
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5-3.設計提案
<1階>
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1階では緑地帯のバッファーで工場側空間と地域拠点側空間をわかち、地域住民は全面広場を渡り、メインエントランスへと向かう。大階段では溜まり場としても機能し、都心部に立つ清掃工場としての賑やかな立ち振る舞 いを担う。
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地域施設側の1階部分では工場排熱を利用した熱利用還元施設として温浴施設が入る。 地域拠点として健康促進の面も地域に発信する。
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<2階>
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ジムや多目的室から市民の活発な様子が見える。https://gyazo.com/91bfc29d1015599ec7646bd7f943a318
2階から工場施設側に見学者動線が現れる。復水器、排煙設備の巨大設備の空間。https://gyazo.com/1b5a8f4af0a755967f529161e799c5a1
工場管理動線を分つことで、日常的にプラント設備機器を身近で感じる空間となり、認識転換の契機となる場として計画する。https://gyazo.com/6ef4e9c30b96ab0bd845b324fbce99e2
<3階>https://gyazo.com/0da49ff7e4491c11956688708d0bd313
メインエントランスを抜けると、大規模な機械設備あった VOID 空間が人々の視線を集める。4 層吹き抜けのこの場所ではワークショップなどを用いて作られた作品が企画展示される場としの付加価値があり、既存空間と新規要素との関係性に加え、清掃工場らしい空間の転用を行う。https://gyazo.com/47dd78bca2eec94cb959d5d95fea50cc
また見学者動線を抜け、屋上広場では生ごみ堆肥を用いた菜園施設がある。 人々が認識転換を行うために、その場を工場機能空間と地域拠点空間がそれぞれ組み合うように計画する。https://gyazo.com/59f07c28adf412f919979529cfcc7b65
2階から続く工場棟の見学者動線は高さレベルでの変化でより、設備機器のスケールを実感できる。https://gyazo.com/26ba83fdd3f2dddbde1cb27fdae6d171
<4階>
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3階の企画展示スペースを抜けると、中央には大規模なプラント設備は入っておいた場所がある。そこのスペースは外壁保存に伴い、そのままのボリュームの VOID 空間となり、増設したスラブと合わさり、見る見られるの呼応関係を作る。https://gyazo.com/1b2137c5b3abcbe331692041312b0087
3階から4階のあがる大階段では地域拠点として市民の鮮やかな活動を見ることができる。BOX があることで、ヒューマンスケールへと落とし込むだけでなく、表皮に飛び出すことで、アクティビティを外へ発信する装置としても機能。https://gyazo.com/8219f22214ef95de440c0fb71670d37b
<5階>https://gyazo.com/8530f3594af2238868b4b610fd18ed71
挿入された LBOX の 2 層目を見ると、大規模な XLBOX から徐々にヒューマンスケールへ と落ちついていくように計画する。国道 122 通りからは人々の活発的な様子をみる。吹き抜けを介し、奥に見える活動から大空間ならでの自分の心地よい空間を探そうとする アフォーダンスを引き込む。https://gyazo.com/af5e60159db04b253350c3b9d68a1954
5階の増設したスラブ部分では赤羽・志茂地区の様子を見ながらの簡易なダイニングスペースがあり、休憩や談笑の場として担う。https://gyazo.com/9a6353954831146f0d45811bf0e4557f
<6階>
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<7階>
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https://gyazo.com/9ca498708e81e71614a7e8ecf25a0191
まとめ
本研究を通じて、清掃工場の認識転換に伴う新たな役割が求められていることが明らかになった。
1、清掃工場の部分建替え計画についてプラント設備を主設備部分、副設備部分と大別し 副設備部分を配置変更することで、柔軟な部分建て替え計画可能である。
2、コンバージョンの可能性について 大規模な空間を有する清掃工場では既存の空間を活かして、異なるスケールの空間の付加、ボリューム操作といった設計手法が有効であると考えられる。
3、地域施設とのかかわりについて廃棄物の処理施設としての役割であった清掃工場に地 域施設が複合されることで、環境問題を考える契機を創出し、地域との関わりを持ち、周辺住民の生活を支える新たな役割を担うことができる。
講評:山口君は学部生の時から研究室の清掃工場のプロジェクトを担当し、各地の清掃工場を視察したり、メーカーの担当者から設計の課題を聞いたりしていた。修士設計はそうした彼の3年間の研究活動の集大成だといえる。建替えの難しい主要設備部分を保全し、副次的な設備部分を新たに作り直す。さらに、以前の副次的な設備の部分については意匠性や空間性を生かしながら地域施設にコンバージョンする。こうした設計手法は、実際の清掃工場の現実的な課題に応えるリアリティがあり、清掃工場建築の持続的な活用に対して有効な提案になっている。(山中)